大久保宏明の法令散歩~起承転結の文章作成について



【1】起承転結の「起」

(起)
世の中には、同じ顔をした人間が3人いるという。
私は、自分と全く同じ顔の人に出会ったことがある。六本木で一緒に飲んだ。
まるで、鏡を見ているようで、友人たちも、みなビックリしていた。
もう一人、いつか会えるかもしれない。

(承)
顔はともかく、どうも、私と同姓同名の人たちには、「先生」が多いようだ。名前負けしないよう努力しよう。
ここでは、文章の作成について考えるのであるが、同姓同名のある先生が、「起承転結にとらわれるな」と論じているのは、確かにそのとおりだ。自由に論じたいのなら、形にとらわれるのは得策でない。

(転)
しかし、それは上級者向けの話であって、文章作成の初心者は、やはり、まず起承転結を学んでほしい。
そうでないと、読み手に伝わらないからである。

(結)
政治家・学者・法律家等にとって、第1に問題の所在、第2に自説(結論)、第3に理由づけ、この3要素がなければならないことは、概ね争いがないであろう。
この3つの要素のうち、どこか1つを分岐させれば、簡単に起承転結の文章になる。
文章が上手に書けないと自覚している人たちには、これだけを知っておいてほしいと説明している。

【2】起承転結の「承」

むかし、先輩(元日弁連会長)から教わったのは、次のような文章であった。
出典を知らないうえ記憶に頼っているので、誤りがあるかもしれないが、お許しいただきたい。

(起)
難波(なんば)浪速(なにわ)の、花屋の娘
(承)
姉は16、妹は14
(転)
諸国の大名、矢で殺す
(結)
花屋の娘は、目で殺す

【3】起承転結の「転」

①問題の所在、②自説(結論)、③理由づけ、この3要素から、簡単に起承転結の文章を作ることができる、と記した。どれくらい簡単か、例を示してみよう。

(起)
憲法は、言論、出版その他一切の表現の自由を保障している。これなくして、われわれの個人的・社会的生活は成り立たない。

(承)
なぜなら、自由主義的に考えれば、表現の自由は「自己実現」であり、民主主義的に考えれば、表現の自由は「自己統治」だからである。

(転)
しかし、憲法が保障している人権は、表現の自由だけではない。ある人の言論が、他者の人権を害することは、当然にありうる。だから、人権保障は、絶対的なものだと解してはならない。

(結)
そこで、憲法は、人権保障に制約があることを「公共の福祉」による制限だと規定しているわけである。
フランス人権宣言は、「他人を害しない全てのことをなしうる」力が「自由」である、と規定した。
わが国で、いわゆる内在的制約説が、「公共の福祉」を「人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理」と定義づけたことは、かようにして理解される。

【4】起承転結の「結」

さて、ここまでの長い文章に、どう決着をつけるか。
たとえば、「それゆえ、私は、言論の自由と人格権との調整を図るべく、プロバイダ責任制限法を研究している。」と結べば、ここに記した文章全体が「起承転結」となり、語ろうとする文脈の骨格が確立される。

ここからは余談であるが、意識的に結論を変えたいのであれば、問題の所在をすりかえればよいことになる。理由づけは、結論に沿って適当に取捨選択すればよい。
政治家・学者・法律家は、まさに、こうした手法で言葉を重宝に操っているのだから、基本を知らなければ、真実は見破れない。だから、起承転結を学べと論じているのである。

起承転結を基本としつつ、みずからを偽らずに中身を充実させていけば、達人の文章を作れるはずだ。しかし、それには、たいへん時間がかかる。
私は、その途上にあると信じているので、起承転結という基本から外れないように強く意識することがある。

行政書士・社会保険労務士大久保宏明(元検事・元弁護士)